石川インドネシア友好協会

石川県インドネシア友好協会

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当会会員の石谷裕太氏が、インドネシアでインターンを経験してきた体験談を紹介します。

経済産業省は2012年度より海外でのインターンシップを通じて人材を育成するプログラム「国際即戦力育成インターンシップ事業」を開始した。
本事業は開発途上国の民間企業、政府系機関や業界団体の受入機関に対し、学生や日本企業の若手社員をインターンとして派遣し、2〜6ヶ月間の現地実習をすることで中堅・中小企業の海外展開促進、インフラビジネスの促進、将来のグローバルリーダーとなり得る日本人若手人材の育成促進を図る目的で計画されたものである。

私はこのプログラムを活用し、2015年10月から12月までの3ヶ月間、インドネシアで石炭火力発電所を運営するPT. Adaro Powerへ派遣された。

インターン先ではインドネシア国内の電力事情についての講義受講、石炭採掘現場や石炭火力発電所の見学、新規石炭火力発電所建設予定地及び地権者宅への訪問を通じてインドネシア国内の電力事情について理解を深めるとともに将来的なビジネスパートナーとの人脈を形成することができた。

以下はインドネシア在住の邦人向け情報誌「さらさ」へ寄稿した体験談である。

かつてプロジェクトに最も反対していた人物がなぜ最大の理解者となったのか。私は2015年11月18日から11月20日までの日程でインドネシア中部ジャワ州バタン県を訪問した。

そこでは現在、電源開発株式会社、PT. Adaro Power、伊藤忠商事株式会社 3社が設立した現地法人PT. BHIMASENA POWER INDONESIA(以下BPI)によって出力2,000MW(1,000MW×2)の石炭火力発電所の建設が進められている。
2011年に始まったこのプロジェクトはインドネシア政府が進める35,000MWプロジェクト(2019年10月までに合計35,000MWの発電所を建設する計画)に資するものであり、また、インドネシア政府が進めるPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の第1号案件に認定されるなど官民一体型のモデルケースとしても注目されている。

しかし建設予定地地元住民の当プロジェクトへの反対活動により着工を延期せざるをえない状況が続いていた。地元住民はどのような思いで当プロジェクトに反対していたのだろうか。

彼らが主に主張していたのは収入機会の損失であった。地元住民の主な生計手段は水田やジャスミン畑での農業、近海での漁業である。当プロジェクトにより発電所が建設されれば農地が収用され、また、発電所から海域への排水により、近海での漁業に影響を与え、自分たちの収入機会が奪われると主張していたのである。石炭火力発電所の建設に反対する環境保護団体も加わり、当プロジェクトへの反対活動は日に日に大規模化していった。

私が会った元反対派の一人はかつて、周辺の村の反対派住民を率いてプロジェクトの反対デモを主導していた人物である。強硬に反対し、当初はBPI職員の訪問を拒否することもあった。

下の写真中央で私と握手を交わしている男性がその人物である。

石谷会員
写真からも見て取れるように現在BPIと同氏は友好な関係を築いており、当プロジェクトに理解を示し、BPIに協力している。
何が彼を変えたのか。前述の通り、発電所建設に反対する地元住民の最大の懸案は収入機会が奪われるのではないかという不安であった。しかしBPIはプロジェクト開始当初から住民の収入機会を奪うことのないように、農業従事者には代替地を用意、損失補償も適正に行っている。近海の生態系に影響のないような発電所設備を計画し、国による環境影響評価の手続きも適正に行っている。

BPI職員はこれらの取り組みを地元住民に理解してもらうため、幾度となく説明会を開催、足繁く住民の下に通いつめた。
私も日本の会社で用地取得交渉の仕事を担当していたが、取り組み姿勢は日本と同じだと感じた。飛躍的に事態を進展させる手段はなく、日々地主の下に通いつめて少しずつ信頼関係を構築していくのが最良の手段である。
結果、当初プロジェクトに反対していた人々はBPIの取り組みを理解し、プロジェクトに協力するに至ったのである。

このプロジェクトの成功が何より地元地域、ひいてはインドネシア全土の発展の一助となることを強く願う。